根強く残る差別 知ってほしい
根強く残る差別 知ってほしい
「いつかあなたに手話で取材してほしい」。ある聴覚障害者の男性から取材の帰り際に言われた一言だ。
先週、県内で唯一手話ができる社会保険労務士として、障害者の職場環境の改善に取り組む山本敏彦さん(51)=神戸市北区=に話を聞いた。
自身も難聴者である山本さんは「聴覚障害者への差別がいまだに根強く残っていることを知ってほしい」と強調した。
山本さんに誘われて聴覚障害者の自助団体を訪れ、そこである男性の生い立ちの話を聞いて衝撃を受けた。「僕の母親は障害を理由に親族から中絶を勧められた。3度目の妊娠で反対を押し切り、ようやく生まれたのが僕なんです」。
昭和23年に制定された旧優生保護法では、本人の同意を必要とせず障害者に不妊手術を促すことを認めていた。
旧法の「優生思想」が削除され、「母体保護法」と名を改められたが、いまなお差別や偏見で苦しむ人がいることを改めて痛感し、言葉を失った。
「親族の結婚式に呼んでもらえない」といった、山本さんに寄せられた聴覚障害者たちの相談の言葉からは心の叫びが痛いほど伝わってきた。
「聴覚障害者への取材は時間がかかる。全てを理解してもらうことは難しい」と山本さん。
どんなに時間をかけても、人の思いに寄り添って物事の本質を伝えていく記者になりたい。
この取材を通じて強く思った。(木下未希)