介護施設の職員の間でよくささやかれる"うわさの真偽"を確かめる機会があった。
介護に関する研修会で講師を務めるため、ある地方に出向いたさきのこと。懇親会で8人の介護職員と話し込んだ。
「介護が必要な状態になったら、自分の働いている施設で介護を受けたいと思いますか」。
そう尋ねてみたところ、全員が「受けたくない」と言い切った。それぞれの人の勤務先は、どこも入所を希望して待機する人が100人単位でいる"人気施設"というのにだ。
「ウチの施設の食事はまずい上に、介助が乱暴」
「ウチはすぐに胃に穴(胃ろう)を開けられる」
「女性の入浴介助を男性職員がする」
「看護職と介護職の仲が悪くて、責任のなすりあいが絶えない」・・・。
次から次へと"真情報"があふれ出てきた。
「じゃあ、どこなら入りたいですか?」
と尋ねると、3秒ほどの沈黙の後、
「入りたい施設ねぇ、ないなぁ」と1人が答える。
「そうだねぇ、ないよねぇ」と他の7人の相づちが入る。
そんな本音は、入所者やその家族は知らない。いや、分かっている人は少なくないはずだ。ただ口に出せずに我慢しているのだろう。なぜなら、施設に要望を言おうものなら「苦情」と受け止められ、その後は明らかに足元をみた言動をされる。疎まれながら、肩身の狭い思いをして暮らし続けなければならないからだ。
施設の職員たちは、そんな実態まで分かっているからこそ「入りたい施設はない」という本音が漏れ"うわさ"のように広まっていくのだろう。懇親会の場は
「私たちの感覚って、どこでも同じなんじゃないの」
と1人の職員がまとめた。 それにしても、利用者やその家族、職員の本音と向き合うことを恐れ、耳を傾けようとしない施設は、裸の王様と化したも同然だろう。残念だが"うわさ"は事実のようだ。
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